野火(のび) (新潮文庫)

野火(のび) (新潮文庫)


東南アジアのむせるような草いきれのなか、
瀕死の状態で飢える田村が目に入るものを食糧として見ている動物くさい様子の反面、そんな情景を静かに羅列されていく文字がすっと消えていくような瞬間があった。
ついに手をだすようになるヒルやナメクジのような生き物の味を想像させられ、塩を魚籠から少しずつ嘗め、気力を保つ。塩の辛さが嫌でも口の中に心地よく再生された。


悲しいだけ・欣求浄土 (講談社文芸文庫)

悲しいだけ・欣求浄土 (講談社文芸文庫)


端正な言葉の選択で、描くエッセイは
庭に住まう蛇や蛙について書いている。
身近な生活の一片を描いた寺田寅彦のそれとはずいぶんと異なったものを読めた。しかし端正とはいってみたものの、この言葉が
ピタリときているとは到底思っていない。
うまく結びつく言葉はまだ見つれらない。
妻を亡くした時の一節と、サーカスの雌ゾウのくだりが良かった。