「今日は落語を見て来たよ」
と髭ある人が二たび三たび微吟して、あとは思案の体である。


広場の造形 (1968年)

広場の造形 (1968年)

カミッロ・ジッテ 著
大石敏雄 訳


託児所なんかで見かけるもので
「わんぱく広場」とか名称がついているものがある。
ヒロバってなんだと思ったのがきっかけ。


実に1843年生まれのジッテ
テラーニが生まれる前の年に死んでいることから
彼の理論が効果を発揮した時期が思い浮かべられる。
だが、本書で説かれる広場の効用は
現在の言葉で再考される必要があるかもしれない。


都市計画に芸術的視点を持ち込むことを訴えた書だと言える。
往々にして都市計画は官僚的な線で作られていくことが多く
それに対して、すこぶるジッテは激怒しているようだ。
ウィーン、ドイツ、イタリア、フランスの都市を例証し
図による注釈も入れて古代広場なるものを検証していく。
この手の書物で図がないと厳しいかもしれない。


興味深いのは、都市に対する批評言語である。
都市の建設に際しても、
芸術にかかわる面を考慮しなくてはならないとジッテは言う。


「良い例」に際して以下のような言葉が用いられている。
美しさ、意味、性格、芸術的効果
価値を発揮する、すばらしい効果、優れた配置、圧倒的な印象、
と言った「優」をつけていく。ここが中々笑える。


おもしろかった表現として、
都市に置かれるモニュメントの配置の話がある。
積雪後に雪だるまが置かれている位置こそ正しいという。
これは今まで思った事もなかった。

アン・リー 監督作品


ジェイク・ギレンホールヒース・レジャー主演で
ホモの話。


ローカルなアメリカに新しい息吹を感じる。
台湾の映画監督という事もあるかもしれないが
ここに映るアメリカの大地は
見たかったものを表現されているような感じがする。


冒頭のトラックを引いて撮影しているシーンから
「あ、」と思わせるものがある。
ヒース・レジャーの住んでいる住居が中々いい。
アンドリュー・ワイエスエドワード・ホッパー
風景がこのような新しいものとして浮かび上がることを
嬉しく感じる。この監督は中々いい。


圧倒的に前二者の画家とは異なるのが山のある景色だろう。
山や海を「持つ」風景は、どこか違う気分を自分に与えてくれる。


倫敦塔・幻影(まぼろし)の盾 他5篇 (岩波文庫)

倫敦塔・幻影(まぼろし)の盾 他5篇 (岩波文庫)


夏目漱石 著


こういう短編集だと一冊で何か書くというのは
どうも不徳のように感じる。


ひとまず、「倫敦塔」「カーライル博物館」「幻影の盾」「一夜」を
読んで、はて他も読むとしてもひとまず、区切ろう。
それでも四つについて書くのは力不足もいいところだ。
ロンドン(倫敦)について彼の表現を書き留めたい。


「空は灰汁桶を掻き交ぜたような色をして低く塔の上に垂れ懸かっている。
壁土を溶かし込んだように見ゆるテームスの流れは波も立てず音もせず無理矢理動いているかと思わせる」


カーライル博物館は秀逸だと感じる。
漱石の足音が聞こえんばかりで、枯れ葉を踏み歩く音や
古い窓や戸を開け放つ音がしてくる。
窓から見える風景、カーライルに思いを馳せながらの漱石の仕草がいい。
どこか、愛嬌のある人への洞察がこの一遍の魅力であり
漱石の巨大な壁をすーっと通れてしまうように思える所以である。