あらためて文字にしてみると、あるいは、まじまじと眺めてみると、
慣れ親しんできたはずの言葉が、いつもとどこか様子が違って見えることがある。
声にしてみると確かに、これまでと同じ音声が発せられる、だが
一度、その言葉の持っている異様な顔立ちを垣間見ると、どうにも落ち着かない気分になる。
知人が、急に全くの他人となったような心地とでも言えばいいだろうか。


しかし、次第にその言葉は他の平凡な言葉たちに混ざっていき、
ついにはどれがそれだっかも忘れていく。
それではと思い、何かにソレを書き留めておき、逃げてしまわないように鎖でつないでおいたとしても、
どれだけ眺め直したところでソレは親しみの込もった言葉以上の顔をあらわそうとしない。


こうした事が起こると、その前後で言葉の座標がまるで変わってしまったようで
私は言葉の定義する世界にいることがとても心許なく感じられる。
まったく同じ顔をした別の世界に放り出されたとしたら、
変わらず、同じ顔をしていることのほうが、違って見えるものよりよっぽど不気味ではないだろうか。