紅海でダイバーのライセンスを取得した。
ウェットスーツを着込み、フィンを足先にくっつけて、
ボンベから酸素を吸う。そうした装備からダイビングは始まる。


海水に潜っているため言葉が使えない。
身振り手振りの手話が基本で
これだけでこんなに意思疎通ができるものかと不思議に思う。
というより意思疎通すべきことなんて、そもそもそれほどないのかもしれない。


ポールとスティーブというイギリス人がトレーナーだった。
潮風と強い日差しによって刻まれた皺が海の男然とした風貌を作っていた。
が、話す言葉はキングダムイングリッシュで、
海の開けたイメージとは反対の少し皮肉の入ったテンションが存在する。
Nice Guysといった感じで、カンニングしながらテストも合格させてもらった。


私が取得したライセンスは、深海15m程度なら一人で遊泳可能なものである。
やおら、ボンベを背負って一々、海を潜るかというとその実、疑問もあるが
ダイビングは私のフィーリングには合っているように思えた。


沈没した船に珊瑚がまとわりついている様子や、陸の上では別の使命をもったものたちが
ウニや小魚にとっての良い住まいとなっているのは、誠におもしろい。
すさまじい毒をもった魚が岩岩のすきまに潜んでいるアドベンチュアが
海底には確かにあり、野生の空間を発見するような思いである。


シュノーケリングのほうが、軽やかな良さがあるが
あれは潜水ではないと今では思う。
水中でもっとも苦しむのは私の場合、水圧の存在だった。
体内にある空気は水中で体積を萎縮し、うまくその変化へ体を適応させていかなければ、
招かれざる客となる。


小さなエイやクラゲ、マーカーでさっと描いたようなカラフルな魚たちは
なんとも不思議な光景を演出してくれる。
水面を見上げ、気泡が上昇していく様子は、新しい感じがある。