ロンバルディア地方はその地域が持っている気骨がどこかにあるのだろう、
イタリアとは区別され、私たちというようなまとまりの意識があると聞いたことがある。


地中海的などといわれるような気分がイタリアを代表するのに対し、
私がこのたび訪れたのはどれも地中海に面していない町ばかりだった。
旅先を決めた具体的なきっかけとなったのは、ある著者がミラノについて書いているのを読んだことだった。
その著書が描くような、真っ暗なミラノの夜道を、霧が浸食していく情景をこの目で見たいと思ったのが動機といえば
動機らしいが、イタリアを地中海の一言で片付けてしまうことに戸惑ったことが
海を嫌って内陸へ赴いた理由といえるかもしれない。


国際線が乗り入れているミラノのマルペンサに到着すると、
ミラノ中央に上陸する予定を変更し、少し北上し、コモへ向かった。
海がない代わりに、湖を私の受け入れ先とするのも悪くないなと悦にひたっていた訳だ。
大学時代にひたすらに眺めていた建築家の仕事に対して
十分距離がとれていることをこのとき感じた。


コモは山間の湖に面した町であり、電車が駅へ乗り入れた頃には
町は霧で覆われていた。海際の開放感とは程遠いような、山独特のしっとりとして澄んだ空気を
吸い込み、適当に目的の場所へと足を運んだ。


線路沿いの街路を抜けると真っ白な建築が左側から現れた。
その独特のプロポーション幾何学的な印象を一歩踏み超えるような感触がある。
ほとんど確認作業のように周囲を眺めた後、室内に入ると
ああ、これがテラーニかと初めて知った。


霧の中をユラユラ灯る街灯を数えながら、近くの幼稚園へ赴くと
建築家が考えただろう力の逃がし方やその後から来る手の動きを見つける。
リジッドな線に対してその穏やかな佇まいが、心に残った。