昔から地図を眺めるのが好きで
鮮やかな国の旗を見ては心躍っていた。


社会科の教科書には資料として世界地図がついており、
そこに赤字や黒字で載る小さな村の名を読みながら、どうやら岬があるようだと
見た事も聞いた事もない地名に未熟な憶測を飛ばしていた。


そうした異国情緒に酩酊しながらもひときわ、私を捉えて話さぬ地名があった。
死海」である。


日頃から竜と戦うようなゲームばかりしていたこともあって、
この地名はひたすらに、当時の私に別世界の可能性を暗示させていた。
偶然にもこの冥府を連想させる言葉に再び出会い、
私はいてもたってもいられずに
とうとう、ここへと足を伸ばすことにした。


海は生命を連想させる。
潮風が波を生み出し、空には海鳥かなにかが飛び交っている。
浜辺には粉々になりながらも貝殻を発見する。
だが、ここはこうした海へのイメージが通り過ぎてしまっている。


穏やかな波こそあれ、ここは時間がとごっているようなつらさがある。
ジリジリと焼き尽くされ、シロップになった時間がうねっている。
向こう岸にパレスチナが見える。それもよくわからない。