時間のなかの建築

時間のなかの建築

モーセン・ムスタファヴィ
デイヴィッド・レザボロー 著
黒岩いずみ 訳


風化する、Weathering という切り口で建築を眺めていく。
その語り口は非常に柔和でやさしげである。
国際様式がその生産性と道具への美学を流通させ
こうした思想から排除されたものを汲み取ろうとしている。


アルヴァロ・シザを引いて
流通の限られた市場で達成される建築には、
そこで扱われるものたちを熟知した環境が整っている。
非常に多くの選択肢を持つオランダでは、
それらを扱う手だてがマニュアル化されているという。


北アフリカやインドで発見されたブリーズソレーユの旅路を出し、
建築が建つ場所の鏡として「周囲に溶け込む」ことを説く。
スカルパやサーリネンの話が中々興味深い。


本書が野心的だと思えるのは、風化を設計へ取り込もうと
いくつかの建築を例証している点である。
錬金術的なもののように見えなくもないが
「環境」という言葉がまだ、うまく落ち着いていない中、
これまで語られていた文脈とは、
違ったものとして考え直されていく必要はあるだろう。


実務では、ジョイントに腐心する事もあるが
やはりシーリングで水を切るという思想の背後にあるものを
見通し考察される必要があるのではないか。


序文を槙文彦が書いている。
「若さ」から「しみ」へ建築を眺めなおすことの
証人に巨匠はなっているわけです。