岬 (文春文庫 な 4-1)

岬 (文春文庫 な 4-1)


呪われる、こんなよく知っているようで巡り会ったことのない言葉がある。
中上の書くものには、土地や血といった封建的な家族や社会からくる呪いがあるように思える。
土地にしばられている感覚は、人に対してはよく感じるが
こと自分については、故郷がない状態が続いてるため羨ましさを感じることも時折ある。
ただ、どこにいてもそこに引き戻されるような引力は、やはり呪いのようなものなのかもしれない。


小品が数点収められた本書の中で、
男がひたむきに土方作業に勤しむ間、その呪いから開放されているように見える。
自分が力を入れた分だけ、土が掘り返される様子は軽やかで透明に表現されている。
工事に使う道具を点検する男の様子などに、私は打ちのめされた。


そこから自分に照らし返すと、私は力がほしいのだと気づいた。