隣の病い (ちくま学芸文庫)

隣の病い (ちくま学芸文庫)

東京を出る時にスーツケースに忍ばせて来たものの一つです。
中井久夫精神科医でありながら
ギリシャ詩編の翻訳もされているそうです。
先輩から中井を知り、彼の書籍を読むようになりました。
文体の持つ上品さと優しさに心地よさを感じます。


巻末にはどちらかというと軟とある本書は
美しいエッセイの集まりとなっており、読みやすい。
関心は広く、それでも一貫性があるように感じられます。


ムンク展覧会に寄せて」というものが印象に残りました。
精神科医だからムンクといった取り合わせに
著者も面食らっただろうと推測されますが、
ここで「北欧」に関する面白い指摘をしています。


中井はムンクについて周辺情報をいくつか挙げた後、
東山魁夷を召還し、静謐、清潔、透明から日本人画家の発見した北欧美を挙げている。
これは今日における日本人の北欧イメージに先鞭をつけたものかもしれません。
ここには、モダニズムとの親和性の高い北欧が垣間見れる。
私たちが好意を持っている北欧は大方こちらなのだろうと思われます。


作家の素質に「フローラ」的と「ファウナ」的があると堀辰雄が分けていることに
依拠しつつ、先ほどの東山の北欧をフローラ的(植物的)とするなら
ムンクはどうしてもそうした括りでは消化できない要素があるという。
すなわちファウナ的(動物的)な素質を感じさせる。


「北欧」という言葉の中にムンクがいる、
それだけで私には面白く感ぜられました。